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室内楽、エクスペリメンタル、即興、エレクトロニックミュージック、エスニック...どんな言葉を羅列したところで、この作品を表す事は出来ないだろう…。
82年にアルバム「99.99」(フォー・ナイン)でデビュー後、数々のグループに参加、ストリングス・トリオBios、ソロアルバム、即興を中心としたライブ、演劇・ダンスのための音楽制作、執筆、ワークショップなどなど、とにかく多くの活動を精力的に行っている横川理彦がついに辿り着いた表現の極北。バイオリンとサンプラー、そして横川のコンピューターが奏でる、ユーモアとエスプリに富んだ傑作!
これは、西洋音楽が中東へ回帰する旅行記であり、望郷の念であり、ラストトラックはまるでゴダールの映画を聴いているようにあまりに美しく、フランスへの帰路へつく。
Baltazar Montanaro-Nagy バルタザール・モンタナロ・ナギー / Violin
Tadahiko Yokogawa 横川理彦 / Computer
Serge Ortega セルジュ・オルテガ / Effects, Sampling
バルタザール君と出会ったのは2008年の3月、マルセイユの知人の紹介で、若いヴァイオリニストがエレクトロニクスの専門家と共同プロジェクトを立ち上げたい、とのことだった。最初のセッションはバルタザール君の故郷の南仏コレンスで、数日間一緒に即興したりまわりの自然音や村の人たちの声を録音したものをベースに40分ほどの組曲を作った。バルタザール君のお母さんはハンガリー出身の画家、お父さんは南仏の有名なトラッド・ミュージシャンという家系で、彼の演奏スタイルにはさまざまなトラッド音楽が息づいている。私もヴァイオリンを弾くし、いろいろなトラッド音楽も好きなので、作業は楽しく、スムーズだった。このプロジェクトはRed Railsと名づけられ、ミキサー+エフェクトのセルジュやヴィデオアーチストのルノーも加えてセッションやコンサートツアーを重ねている。
このアルバムは、2010年の9月にマルセイユで録音したものが中心で、メロディやハーモニーなどあらかじめ準備していたものと現場の即興で作ったものが半々だ。まず3人で録音し(バルタザール、セルジュ、私)、それを聴きながらすぐに編集し、オーバーダビングをして作品のラフな形を作る、というやりかたで、曲の方向性やタイトルもその場で決まっていった。エンジニアのドミニクの犬がおとなしくセッションを見守っていたのが印象的だった。(横川理彦)
試聴はこちらから:https://soundcloud.com/murmurrec
■大谷能生
このアルバムはフランス、マルセイユでの録音を中心にして仕上げられたものだという。ぼくの想像力は、この言葉だけで、スピーカーから聴こえてくる音の向こう側に、まだ見たことのない南仏の海を聴き取ろうとする。しかし、ここに響いている一音一音に重ねられた残響と遅れは、日本からフランスまでの距離よりもさらに遠く、深く、それは録音のなかだけにあるだろう景色をぼくたちの前にひろげてくれるのだ。ヴァイオリンの旋律の裏地に縫いこまれた環境音が、突然のようにぼくたちを彼らの部屋のなかに招き入れ、エレクトロニクスによって綿密に調整されたデジタル・レイヤーが、無時間・無人称な場所を作り出す。「人生の真実な瞬間における、誇張された身振り」について語ったのはシャルル・ボードレールだが、コンピューター内で即興的に、しかし綿密にミックスされたこれらのサウンドは、フィクションだけが持っている耳の真実をぼくたちに経験させてくれる。
■TAMARU
不眠症のロマたちが身を揺する、風とパルスの音楽。
サロンに抜け出す隊商の夜番。ふと目が合ったのは、異国の鳥。
熱風にはためく幌をめくれば、地平線が白みはじめていた。
夢の鋳型を手に取る。RedRailsにて。
■津田貴司
そこは天井の高い、映画館のような建物で、嗅いだことのない香辛料の匂いが立ちこめていた。
古いフィルムが廻っていた。
フィルムは、絹糸が巻き取られたり、それがまた解かれたりする様子を映し出していた。正面の白い壁には崩れた跡や染みがあって、どこまでがフィルムに刻印されたテクスチャーなのか、ときどきわからなくなった。
古いフィルムは廻り続けていた。
糸の優雅なうごきをずっと目で追っているうちに、この映像をどこかで観たことがあるような気がしてきたが、憶い出せなかった。ただその内触覚的な肌触りを、よく知っているような気がした。
■浅野達彦
演奏と物音の間を自由に動いているように感じた。
音への心の抜き差しのような、一瞬のふくらみにはっとする。
洞窟で見つかった木炭で描いた動物や、実家の暗い土間から陽の照った外を眺めている気持ちを思い出した。
■atrem
自分が生まれるよりもずっと昔の、細胞に刻まれた古い記憶が呼び起こされるような感覚。
いくつもの時代、様々な国や文化が交差するのを目の当たりにしているような感覚。
此処ではない"何処か"での出来事を傍観していたつもりが、
音が鳴り止んだ時、"何処か"とは此処であり、自分も当事者であったことに気付いた。
レビュー
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